スポーツ競技のパフォーマンスを上げるための秘訣
パフォーマンスに見合うだけの機能回復
私がスポーツ選手の治療で特に気にかけていること。それは、リハビリの段階でパフォーマンスに見合うだけの機能回復ができているかということです。痛みなどの症状が治まっても機能回復に至っておらず、再発ということが往々にしてありますから慎重になります。私は痛みなどの「症状」という現象を独自の解釈でみていることから、リハビリ中は選手の細かな「動き」に目を凝らしています。そして、「動き」に混じり込んでいるノイズがどこからきているものなのかを骨格筋の筋線維、深部感覚などを探り、問題が見つかればリハビリに反映します。リハビリの完了は、パフォーマンスを上げていける状態までの機能回復ということになります。競技復帰後は、パフォーマンスアップのために選手本人が「動き」に磨きをかけるという流れです。選手が「カラダの機能的な問題」でわからないことがあればアドバイスをしますが、「各競技の技術的な問題」は、その競技の指導者の専門領域ということになります。
「カラダの機能的な問題」と「各競技の技術的な問題」の混同
スポーツ愛好家の方の中には、「カラダの機能的な問題」と「各競技の技術的な問題」を混同している方が多く見受けられます。例えば、私に「速く走れるようになる方法を教えてください」「速いボールが投げれるようになるにはどうしたらよいですか」など、競技の技術的な問題を求められても答えようがありません。技術的な問題は、各競技の世界で競技者として実績がある指導者あるいは指導実績がある指導者の専門領域だと思います。私はカラダの機能的な問題が専門ということです。まず、自分のパフォーマンスを上げるためには何が必要なのかを知ること。機能面なのか技術面なのか、それを理解することができればトレーニングを進めやすくなります。
カラダの使い方を教えてください
カラダの使い方というのは、「カラダの機能としての動き」なのか「技術的な工夫による動き」なのかを明確にすべきです。これも、混同されている方が多く見受けられます。私の専門は「カラダの機能としての動き」になります。例えば、「腕の使い方を教えてほしい」という相談を受けます。腕の使い方を身につけるためには、腕がどこから動く仕組みになっているのかを知り、腕が動くポジションへ回復、腕が運動方向に動くよう機能回復、そして腕が円滑に動くようトレーニングします。しかし、カラダの使い方を混同されている方は機能回復を飛び越して腕が円滑に動くように練習してしまいます。これでは、いつまで経っても小手先の動きでしかありませんからいつまでも変わりません。若い選手は目先の技術的な工夫よりも地道に機能面からパフォーマンスを上げていった方がプレーヤーとして大成できるのだと思います。高い技術を身に付けるのならば、それに見合うだけのカラダの機能状態が必要不可欠です。
スポーツトレーナーやフィジカルトレーナー
最近は、スポーツトレーナーやフィジカルトレーナーを仕事にしている人が増えました。そのほとんどが、ダイエットのトレーニングサポートをしているそうです。以前、スポーツトレーナーを仕事にしている方から「スポーツ選手の手術後のトレーニングはどのようにすればよいか」と相談を受けました。私は「それは担当医師に相談すべきこと」だといいました。どうも話を聞いてみると医療機関との連携がとれてないそうなので「自分が責任を負えないことには手を出すべきでない」というような結論になったと思います。スポーツトレーナーの仕事をするのならダイエットのサポートばかりでなく、スポーツ選手のサポートをしたいと思います。しかしながら、「機能回復」というリハビリをするからには相応の国家資格が必要だと思いますし、あるいは医療機関と連携している環境に身を置くことがスポーツ選手への真心だと思います。それは、「肩こり」「腰痛」などのポピュラーな症状を扱う場合も「自分が責任を負えないことには手を出すべきでない」ということがいえます。というのは、それらの症状の中に重篤疾患が潜んでいる場合があるからです。若いトレーナの子たちには何かしらの国家資格を取るようにすすめますがお金と時間がネックのようです。しかし、国家資格を取得するために学んだ知識と経験はスポーツ選手の信頼になると思います。
減量をしてパフォーマンスを上げる
階級別で試合が行われる柔道やボクシングなどでは、階級を下げて勝ちを狙いにいく選手がいます。私も柔道の試合で階級を下げて優勝した経験があります。普段の練習で存分に動いて余分な贅肉のないカラダの状態ですから、はじめての減量では何をどうしたら体重が減るのかわからず3週間くらい何も食べませんでした。減量は力を保ったまま階級を下げることが理想ですが、減量と試合が上手くいったのは1度だけ、あとのほとんどは惨敗でした。減量中の選手の中には献血にいって体重を減らしたり、痙攣を起こして動けなくなった選手をみかけました。危険を伴う難しさがあり専門家の協力が必要だと思いました。「減量」に対して「ダイエット」というのは健康または美容上、肥満を防ぐために食事を制限すること。要は運動量に対して食べ過ぎないように注意することだと思います。食品を大量に廃棄処分するような環境では、ダイエットビジネスが成功するのもうなずけます。しかし、プロスポーツ選手でもダイエット中と報道される時代、子供たちの模範となる人たちには「ダイエットのこと」よりも「食べ物を無駄にしないこと」を伝えてほしいです。ダイエットが必要な選手はパフォーマンスアップ以前に気持ちを奮い立たせることが先決だと思います。
増量をしてパフォーマンスを上げる
競技によってはカラダを大きくしたいと頑張っている選手も多いです。増量したくても普段の練習で存分に動いている選手は食べても食べても体重が増えません。そのような選手にとっては食事もトレーニングであり増量はとても大変なことなのです。ダイエット法で「どれだけ食べても太らない体質になる」という文句をみると、激しく動いて消費するならともかく、基礎代謝だけでそれだけ消費するとなると、効率の悪い体質になってしまうのかと思ってしまいます。増量したい選手にとって悪夢のような話ですね。ともあれ、しっかり動いて大きくなったカラダは確実にパフォーマンスアップのゆるぎない土台になるでしょう。
身長を伸ばしてパフォーマンスを上げる
私が子供のころは「牛乳を飲むと背が伸びる」といわれ、毎日1〜2リットルは牛乳を飲んでいました。今となっては根拠のない話なのだそうですが、当時は真に受けていました。スポーツ選手は競技性やプレイスタイルによって偏ったカラダの使い方をしていることがあります。それはもともとの骨格位置から身長を縮めている場合が多々見られます。骨格ポジションを見直すことで身長が数センチ増すことがあります。私自身も30代になって3センチほど背が伸びました。骨格ポジションの回復は、身長の問題だけでなく、パフォーマンスアップに欠かせないトレーニングです。
高い技術に見合うだけのカラダの機能状態でパフォーマンスアップ
一流になるような選手はオーソドックスなトレーニングを地道に重ねて高い技術に見合うだけのカラダの機能状態でパフォーマンスアップをはかっています。速攻で効果を得られる魔法のトレーニングを求めがちですが、魔法は魔法、求め彷徨っているうちに怪我で足踏み、地道にパフォーマンスアップをはかった選手たちに追い越されてゆきます。パフォーマンスを上げるための秘訣は、自分のカラダの機能状態を理解すること。これは、オーソドックスなトレーニングルーティーンを地道に重ねている選手でしたら何となくわかっているかもしれません。ルーティーンはいわゆる『型』のようなもので、「動き」を枠組みで拘束することにより不自由さの中から自由を見出します。そうすると自分の内部の「動き」が映し出されるようになります。このような深部感覚を感知できるようになれば、自ずとパフォーマンスアップに必要な方向へ向かうことができるのです。