体をやわらかくするには筋トレか?ストレッチか?
なぜ股関節をやわらかくしたいのに、やわらかくならないのか
「股関節がやわらかい」というのは、どのような状態のことなのか?おそらく、「股関節がやわらかい」という実感をした経験がなければ想像するしかありません。ですから、開脚180度できることが「股関節がやわらかい」と想像している人が多いと思います。しかし、実際にはストレッチに取り組んで180度開脚を達成したとしても、今度は「股関節を動かしたい」ということになります。現場では、開脚180度できたとしても、動きにキレがない、怪我が絶えない、などの悩みが多いのです。
それは、例えば「開脚ストレッチ」と「股割り」は、筋肉を伸張するか収縮するかの違いがあります。ストレッチは筋肉を伸ばしてやわらかさを求めるのに対し、股割りは筋肉を収縮して動きを求めます。そして、多くは開脚ストレッチに取り組むのです。筋肉には、伸ばされると縮むという特性があります。これは、伸張反射といわれる生体の防御反応で、関節が可動範囲を超えて怪我をしないように制御しています。「開脚ストレッチ」で180度開脚を達成する場合は、この伸張反射を鈍らせてしまった状態のことが多いのです。逆に「開脚ストレッチ」で180度達成できてない場合は、伸張反射が作動しているので正常といえます。しかし、開脚180度を達成したとしても、動作では動きにキレがない、怪我が絶えない、という結果が待っているのです。
筋肉が力を発揮するのは収縮したときです。股関節は、筋肉が収縮することにより可動します。つまり、「開脚ストレッチ」は筋肉を伸ばす(伸張)ばかりで股関節の動きの訓練に至っていないのです。ですから、「開脚ストレッチ」は股関節をやわらかく滑らかに動かすのに向きません。これは、ストレッチを否定しているわけではなく目的に合わないのです。ストレッチは、適度に心身をリラックスするのによいでしょう。
股関節をやわらかく滑らかに動かすためには、股関節をそのように動かす訓練が必要です。「股割り」はそのための一つの方法なのです。「股割り」は、股関節を外転/外旋/屈曲に筋肉を収縮して動きを訓練をします。「股割り」も「ストレッチ」と同様、緻密な知識と実践を要します。股関節のやわらかい滑らかな動きを求める、動きのキレを求める、怪我の予防を求めるのには、「股割り」などの動きの訓練が必要なのです。
股関節の動きをみるポイント
股関節の動きを滑らかにするためのトレーニングは、足と体幹の構造を整えて股関節の動きを訓練します。足と体幹を整えるというのは、股関節が動く状態に下肢骨を配置し、骨格筋の働きを万全にすること。そして、それらの骨格位置が重心を無理なく受けることができるポジションにあること。足と体幹を整えるというのは、股関節を滑らかに動かすための条件になります。この条件を満たすためには、骨格位置を定め、骨格筋回復、深部感覚の入力などの要素をクリアしていきます。
股関節の動きの訓練は、これらの条件を保持しながら重心移動を円滑に股関節運動を行います。股関節運動は、スクワットや股割りなどの基本動作がわかりやすいと思います。わかりやすいというのは、骨格ポジションが保持できているか、重心移動が円滑に行われているか、など実際に股関節の動きを確認しやすいということです。
スクワットは、しゃがむ動作ですので股関節屈曲、膝関節屈曲、足関節屈曲、という下肢を深く曲げる動きをします。股割りは、股関節外転・外旋・屈曲、という開脚で前屈する動きをします。これらの基本動作は、とてもシンプルですので股関節が滑らかに動いているか、動いていないか、一目瞭然です。
股関節を柔軟にするための施術を受けたり、ストレッチを続けているけれども、「股関節の動きが思うようにいかない」という声を聞きます。股関節に可動制限がある、或いは、股関節に痛みがある場合は、股関節が滑らかに動くための条件を満たしていない、もしくは、動作の際に条件を保持できていないと考えられます。
何を求めるかにもよりますが、股関節を滑らかに動かすためには、それに必要な条件を揃えて動きを訓練することが大切です。
筋トレのススメ:筋肉トレーニングでからだをやわらかくする
筋トレには賛否両論あります。しかし、筋トレの定義があいまいなまま思い込みで筋トレを否定している人も多いようです。また、筋トレの知識がない、或いは、「自分のカラダをどうしたいか」という目的があいまいなまま、目的に合わない筋トレをして失敗してしまう人も多いと思います。
筋トレとは、どのようなトレーニングなのでしょうか?筋トレとは、筋力トレーニングのことなのか、或いは、筋肉トレーニングのことなのでしょうか?これは、指導者、トレーニングに取り組む人により様々な考え方、方法がありますので、筋トレをひとくくりに議論できないのではないでしょうか。私は、自分の目的にあった筋トレでしたら何ら問題ない、むしろ必要不可欠だと考えています。
例えば、「かっこいいボディをめざして筋トレ」「パワーアップをめざして筋トレ」「関節の可動を広げるための筋トレ」「動きを滑らかにするための筋トレ」など、目的にあっていればそれはメリットになります。しかし、目的に対して方法、手段を間違えればデメリットになります。
筋トレは、「筋肉が収縮をして力を発揮する」という特性に注目しています。私の場合は、治療する立場にありますから、怪我を治す、怪我を予防する、パフォーマンスをアップするために筋肉トレーニングをしています。よく「筋トレをするとからだが硬くなる」といわれますが、これは目的やトレーニングの考え方・方法の違いによる結果なのです。筋肉の特性からしても、筋肉の収縮率が上がれば関節の可動が広がるので、ストレッチでからだをやわらかくするよりも、筋トレでからだをやわらかくした方が日常生活や各競技動作に適した実践的なトレーニングになります。
筋トレは、単筋をアプローチすることも、からだ全体の筋を統合するアプローチも大切です。よく「筋トレは部分的に筋肉を鍛えるので意識が部分に集中し動作バランスを崩してしまう」といわれますが、これも目的と方法を間違えているだけです。おそらく、筋肉が100パーセント機能しているという人はいないと思われます。単筋をアプローチするのは機能回復が必要な筋肉に対してです。これは、治療に携わる人や動きに精通する人でしたらわかると思いますが、いずれにせよ専門的な話なので理解が難しいかもしれません。
カラダ全体の筋を統合するアプローチは、基本動作「スクワット」「プッシュアップ」「股割り」などのシンプルな動作で筋肉の連動、関節の運動方向、重心移動の軌道を滑らかにします。このような基本動作においても目的や方法が違えば、当然、結果も違ってきます。よく「子供に筋トレをさせた方がいいですか」と聞かれますが、その子が何を目標にしていて、何を考えていて、どのようなからだの状態なのか、ということがわからなければ答えようがありません。そして、その質問者がどのようなことを「筋トレ」といっているのか、が重要なのです。目的と方法・考え方が違えば、子供さんが犠牲になりかねません。ですから、私は筋トレという表現に慎重になります。
確かに今の子供たちは、筋の機能が低下しています。それは、姿勢を保持する筋肉であったり、走るための筋肉などです。私は、その理由が環境によるところが大きいと考えています。大人は、環境作り、子供には将来を切り開く術を身に付けてほしいと思います。そのためには、どうすればよいのか?私のテーマなのです。しかし、今いえることは、筋トレよりもポジションが大切ということです。筋トレの基本は重力を無理なく受けることができる骨格ポジションで筋肉の起始停止を整えることです。この骨格位置が定まらなければ、筋肉の収縮率を上げることができません。まずは、日ごろの姿勢に気を付けることからはじめてみてはいかがでしょうか。
また、若い世代で基本動作「スクワット」「プッシュアップ」「股割り」などのシンプルな動作に興味を持つ選手が増えてくれたらと思います。基本動作は地味なトレーニングなので敬遠されがちです。私も若い頃は知識なく回数をこなしているタイプだったので、基本動作のトレーニングをしてきつかった記憶しかありません。しかし、長年治療に携わっていると基本動作の大切さが身に染みています。怪我を繰り返す選手は、基本動作が苦手で、そのために筋肉の連動、関節の運動方向、重心移動が上手く行われていません。私は、100の技術を学ぶよりも1つの基本動作に適うものは無いと考えています。
私のおこなう筋トレでは、からだがやわらかく、動きが滑らかになる効果を求めています。逆に、からだが硬く、動きがぎこちない、結果になったとすれば方法・考え方が違います。筋トレをおこなうには、知識と実践の両方を備えて望むことが大切です。
筋トレ&ストレッチをする前にやらなければいけないこと
筋トレをする前にやらなければいけないことがあります。それは、筋肉の起始・停止部を整えること。筋肉を収縮する際に、起始・停止部が適切な位置になければ収縮率があがりません。これは、ストレッチにも、筋肉の伸張率を上げるためにも大切です。しかし、筋肉の硬い部位に注意が行き位置にまで気がまわらないのかもしれません。
これは、筋トレでいう適切な「ポジション」を保持するということになります。しかし、これも、指導者、トレーニングに取り組む人により様々な考え方、方法があります。ですから、「ポジション」といっても共通ではありません。
私の場合は、治療する立場にありますから、怪我を治す、怪我を予防する、パフォーマンスをアップするために筋肉トレーニングをしています。そのためには、筋肉の収縮率、伸張率が上がる「ポジション」が求められます。つまり、主動作筋の収縮率が上がることによって拮抗筋の伸張率が上がる「ポジション」です。この「ポジション」は、筋肉の連動、関節の運動方向、重心移動の軌道を滑らかにする骨の位置で筋肉の起始・停止部を整えます。骨は、重力を無理なく受けることができる位置です。長管骨でしたら長軸方向で重力を受けることができる強度のある位置ということです。この「骨格ポジショニング」をきっちり行って筋肉の起始・停止部を整えます。
つづいて、骨格筋の回復を行います。
筋肉は、動作の中で様々な骨格位置を調節します。上手く収縮させることができない筋肉があったとしたら、他の筋肉が役割以上の仕事をする、或いは、骨や関節が無理を強いられることが考えられます。まずは、単筋のアプローチです。回復が必要な筋肉を収縮することから始め、回復に応じて筋肉の完全収縮を目指し、筋肉の「伸張−収縮」までを回復していきます。
つづいて、カラダ全体の筋を統合するアプローチを行います。
基本動作「スクワット」「プッシュアップ」「股割り」などのシンプルな動作で筋肉の連動、関節の運動方向、重心移動の軌道を滑らかにします。ここでは、「ポジション」を保持することが大切です。そのために必要なことは、深部感覚を備えた「ポジション」で基本動作をするということです。深部感覚とは、自分がどのような姿勢で、自分にどんな力がかかっていて、どのように動いているかを感知する感覚です。基本動作を積み重ねることも大切ですが、自分の「ポジション」に感覚を備えるということは運動の質を高め良質な筋肉を生み出します。
このように筋トレは、筋肉の起始・停止を整えることからはじめます。ストレッチをするときも同様ですが、これは、筋肉の収縮率を上げることで伸張率が上がりますのでストレッチをするという考えが必要ありません。筋トレといっても様々な方法・考え方があるのです。
この筋トレはからだをやわらかく、動きが滑らかになる効果を求めています。リハビリから競技動作のベースになるカラダの機能レベルアップまでを矛盾なく滞りなく筋トレをすすめるには、このような方法・考え方になります。このカラダの機能アップがなければ指導者や選手がいくら手を尽くしても求めているレベルのパフォーマンスアップが得られない、また競技復帰までのレベルにカラダの機能が戻らない。いずれにせよ、どのようなトレーニングを行うにしても筋肉の起始・停止を整えるということが必要不可欠なのです。