股関節の実践研究としてのMATAWARI:治療士としての取り組み
股割りは、開脚前屈というシンプルな基本動作です。私は、このシンプルな基本動作にずいぶん翻弄されたものです。そして、「なぜ、そんなに股割りにこだわるのですか?」と不思議がられることもありました。それでも、10年以上続けていると「股割り」も「股割りをしている私」もあたりまえになるようです。
私は「股割り」を続けてきてよかったと思っています。股割りに取り組んだことのない人からは、「やわらかくていいですね」「痛そうですね」「日常生活にそこまでの可動域は必要ないのでは?」など様々な意見をいただきます。しかし、どの意見も私の実感とは異なるものばかりです。結局、股割りの経験がない皆さんは見た目の感想を言っているわけです。ですから、やわらかくなりたいと憧れる人は、自分がやわらかいという実感を経験したことがないので、人から聞いたこと、知識で得たことなどを頼りに、自分にとってやわらかく映るものを想像するしかないのです。股割りは、動きを滑らかにする訓練です、可動域が広がった、動きやすくなった、と実感があっても、やわらかくなったと実感したことは一度もありません。また、股割りは痛くて、キツイものとイメージしている人が大勢いらっしゃいます。それは、股割りとは異なる方法で間違った動作により痛くて、キツイ経験があるか、或いは、間違った情報を鵜呑みにしているのだと思われます。実際、股割り動作をレベルアップする段階で滑らかな動きができず痛いこともありますが、たいがいは楽苦しいです。日常生活で股割りの可動域が必要かどうか?これは治療院経営者として企業秘密です。興味のある人は、ぜひチャレンジしてみてください。
私が、「股割り」を続けてきてよかったと思うことは、やはり、活きた解剖運動学を学べたこと、もう一つは、股割りつながりの出会いです。股割りは、開脚前屈というシンプルな基本動作です。股関節は、外転、外旋、屈曲の運動方向に可動します。股関節の基本的な知識は、学校で学んで知っていましたが、知識として知っていることと実感して知っていることは、「名古屋名物味噌煮込みうどんを食べたことはないが知っている、或いは、目の前で見たことはあるが食べたことがない」と「名古屋名物味噌煮込みうどんを食べ歩いて一番おいしい店を知っている」と同様の違いがあることに「股割り」を通して気づきました。ですから、好物の味噌煮込みうどんはやめられません、もちろん股関節の実践研究もやめられません。股関節が滑らかに動くためには、「重心がどのような軌道を描いて移動するか?」ということが重要です。これまで、股関節が可動するために必要な筋肉や関節などの機能ばかりに注目して、機能回復をおこなえば股関節が滑らかに動くと考えていましたから、「重心移動が滑らかな軌道を描いた結果、股関節が円滑に可動している」という、発想に至ったのは驚きでした。私は重心移動を滑らかに行えるための条件を揃える目的でカラダの各器官を整えるようにしています。それが、カラダの機能回復と考えています。股割りは、チャレンジ続けることが難しい訓練だと思います。難しいからこそ、得難いものを得ることができ、また、チャレンジを続ける稀な人たちとの関係が深くなるのではないでしょうか。
私が治療士として「股割り」を続ける意味は、それが股関節をはじめカラダの動きの実践研究だからです。カラダの各部にトラブルが生じている場合は、動きをみて、どこに原因があるかを探ります。私自身のカラダ各部の機能と動きの実感が重なり厚くなることで、ヒトの動きがよくわかるようになり、その結果、トラブルの原因を探り当てやすくなるのです。また、パフォーマンスアップに必要なカラダの機能レベルを上げるトレーニングを指導するときは、選手と動きを共有できることが大きいです。ですから、これはやめれないのです。それから、股関節が滑らかに動くようになることで良かったことは、「年齢関係なく関節の可動を上げることができること」を実感できたことです。長年、トラブルを重ねると思うようにカラダを動かすことができず「カラダにガタがきた」と思い込んでいる人が多いです。しかし、それは、動くための条件が整っていないか、カラダを上手くコントロールできていないことが多いのです。これは、カラダが動くようになるためのアプローチをすれば解決することなのですが、一番のネックは諦めた心がそれをさせないことだと思います。もし、心が前を向いているのならカラダは今以上に動くようになるはずです。
今後も股関節の実践研究を続けていきます。さらに、「股割り」だけでなく他のパターンの股関節運動も追加していきます。「股割り」は、開脚前屈が股関節「外転−外旋−屈曲」、ロールオーバーが股関節「内転−内旋-伸展」という一つの基本動作でしかありません。股関節は球(臼状)関節で立体的な運動が可能ですから、股関節を実感し尽くすまでにはまだまだ旅を続ける必要があります。